商品開発の会議や創発のためのブレストでは、よく「YES AND」という原則が語られます。
相手の意見を否定せず(YES)、そこに付け加える(AND)。
アイデアを前に進めるための有名な対話原則です。
しかし、研修やワークショップの場面ではどうでしょうか。
私は最近、こんな疑問を持つようになりました。
研修やワークショップの対話で必要なのは
「YES AND」よりも
「I’m OK. You’re OK」ではないだろうか?
この記事では、この問いを少し深く掘り下げてみたいと思います。
YES ANDは「創発のエンジン」
YES ANDは即興的な創作やアイデア発想の場ではとても強力です。
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否定しない
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可能性を広げる
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発想を前に進める
つまり、YES ANDは
創造を加速させる技法です。
商品開発やブレインストーミングでは、このエンジンがとても重要になります。
しかし研修やワークショップは何が目的なのか
研修やワークショップでは、必ずしも「新しいアイデア」を生むことだけが目的ではありません。
むしろ多くの場合、目的は
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安心して参加できること
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自分のままでいられること
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人との関係を感じること
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身体感覚や対話を通して気づきを得ること
です。
ここで必要になるのは、創発の技術というよりも
存在を肯定する態度かもしれません。
「I’m OK. You’re OK」という態度
「I’m OK. You’re OK」は、交流分析で語られる人生態度のひとつです。
意味はとてもシンプルです。
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私はこれでいい
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あなたもそれでいい
これは評価でもスキルでもなく、
存在に対するスタンスです。
この態度が場にあると、
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沈黙してもいい
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うまく話せなくてもいい
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参加の仕方が違ってもいい
という空気が生まれます。
YES ANDだけでは足りない理由
YES ANDは本来とても良い原則ですが、安心がない場では別の働き方をしてしまうことがあります。
例えば、
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表面上は受け入れている
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でも内側では緊張している
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否定できない空気が生まれる
つまり、
YES ANDが同調圧力になる可能性もあるのです。
その結果、
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本音は出ない
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表面的な対話になる
-
創発も浅くなる
ということも起こります。
ではYES ANDは不要なのか?
そういうわけではありません。
むしろYES ANDは、
「I’m OK. You’re OK」が土台にあるときにこそ力を発揮するものです。
整理するとこうなります。
YES AND
→ 対話を前に進める行動原理
I’m OK. You’re OK
→ 関係を支える存在原理
つまり二つは対立ではなく、
レイヤーが違うのです。
ワークショップの三層構造
この関係を整理すると、対話には次の三つの層があると考えられます。
① 存在承認(Being)
まず大切なのは
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ここにいていい
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このままでいい
という感覚。
ここが「I’m OK. You’re OK」の層です。
② 関係生成(Relating)
次に、人と人の関係が動き始めます。
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対話する
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身体を動かす
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反応し合う
YES ANDはこの層で働く技法です。
③ 創発(Emerging)
関係が動くと、
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新しいアイデア
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新しい気づき
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新しい物語
が生まれてきます。
企業の会議では、この層が目的になりがちです。
多くの場で起きていること
実は多くの研修やワークショップでは、
存在承認を飛ばして
いきなり創発を求めてしまうことがあります。
つまり
安心 → 関係 → 創発
ではなく
創発 → 創発 → 創発
という設計です。
その結果、参加者は
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なんとなく疲れる
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頑張って参加する
-
本当の対話にならない
という状態になることもあります。
本当に必要なのは「戻れる場」
だから問いはこう言い換えられるかもしれません。
「YES ANDか?」
「I’m OK. You’re OKか?」
ではなく
YES ANDが動いても
いつでも「I’m OK. You’re OK」に戻れる場か?
という問いです。
前に進むために、今ここを守る
YES ANDは「前へ進む力」です。
I’m OK. You’re OKは
「ここにいられる力」です。
ワークショップや研修にとって大切なのは、
前に進むことよりも
今ここを守ること。
その安心の上で生まれる創発は、
無理に作られたものではなく、
自然に立ち上がるものになるのではないでしょうか。
もしかすると、
ワークショップにおける本当の問いはこれなのかもしれません。
人を前に進める場をつくるのか
それとも
人が安心して存在できる場をつくるのか
そして多くの場合、
後者があるときにだけ、前者が自然に起きる。
そんな気がしています。
